大判例

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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)5683号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔争点〕Xは自動車による運送業者であり、Y1は金融を業としている者、Y2にその使用人で支配人格としてY1の業務一切を担当していたものであるところ、Xは大阪市内に自動車発着場としてこれに適した土地建物を物色していたが、Y3―Y5(Y3Y4は不動産仲介業者であるが、Y5は金融の仲介業者)の仲介によつて、Y2との間で、Y1がAらより代物弁済としてその所有権を取得した本件物件を買い受ける交渉を始めた。しかし、本件物件については、Aらが右代物弁済の無効を主張して訴を提起しており、Y1もAらより貸金の返済を受ければ本件物件を返還する意向であり、Y2は本件物件を売却するについてY1より何ら権限を与えられていなかつたにもかかわらず、Y2は売買代金名下にXより金員を詐取せんものと、右事実を秘して、Y3―Y5立会いの下に、Xとの間で本件物件を金千七百万円で売り渡す旨売買契約を締結し、その内金としてXより金一千万円を受け取つたが、結局Xは右契約の履行を受けることができなかつた。そこでXは、Y1に対してはY2の使用者としての責任を、Y3―Y5に対しては仲介者としての調査義務を怠つたことを理由に、Y2と共に共同不法行為者としての責任をそれぞれ追求して、金一千万円の支払いを求める訴を提起した。

本判決は、Y1及びY2に対する請求を認容したがY3―Y5に対する請求を棄却した。以下に揚げる判決理由はY3及びY4の責任に関する部分である。

〔判決理由〕

(被告岡部について)

被告岡部が当時不動産の仲介を業としており、原告会社の委託を受けて本件取引を仲介したことは前記認定のとおりである。ところで、不動産の売買等の仲介を業とするものは、委託者に対して不測の損害を生ぜしめることのないよう配慮し、目的不動産の瑕疵、取引当事者の権限の有無等につき充分注意すべき業務上の一般的な注意義務があることは、宅地建物取引業法一三条、一八条一号等の規定の趣旨に徴しても明らかなところである。しかしながら、具体的な個々の場合における右注意義務の程度は、仲介するに至つた事情、仲介の態様やその程度、取引の相手方や目的物件に対する委託者の知識の程度、等によつて軽重があるものというべきである。

このような見地から、被告岡部が本件取引において、必要とされるだけの注意義務を尽したかどうか考えてみるに、まず被告森本の権限の点に関しては、被告藤田から中沢商事の支配人として紹介を受けたのを信用してそれ以上調査をしていないのであるが、当時被告森本は被告中沢の主たる使用人として中沢商事の業務全般に従事しておりあたかも支配人であるかの如き観を呈していたのであり、被告岡部としてもそのことを被告藤田より聞き知つていたことは前記認定事実から推認するに難くない。また実際、被告森本も、本件物件に関して被告中沢の指示を受けて浜田正夫らと交渉していたのであるから、少なくとも、浜田らとの間では本件物件を処分する(例えば同人らに買戻させる等の)権限を与えられていたのであつて、全く無権限ではなかつたのである。このような事情に鑑みるときは、被告岡部が被告森本に代理権ありと信じるのは無理からぬことであつて、それ以上に調査しなかつたとしても、それを以つて被告岡部に注意義務違反ありということはできない。

次に、本件物件の瑕疵の点(浜田正夫らとの間で係争中であつたこと)については、被告岡部は昭和三〇年三月四日頃、本件物件の登記簿抄本を原告側に交付しているのであるが、この事実から当時、同被告が本件物件の登記簿を閲覧したことが推認される。そして、当時登記簿には被告中沢が本件物件の所有権を取得して現にその所有者である旨の記載があり、浜田らの訴提起に基づく予告登記の記載(これは同年四月五日受付である)はなかつたのであるから、被告岡部としては一応目的物についての権利者を確認する義務は尽したものというべきである。けだし、不動産の権利関係は登記簿の記載によつて一応推認されるのであるから、他に特段の事情のない限り、仲介業者としては、登記簿によつて現在の権利関係を調査して瑕疵の有無を把握すれば一応目的物の権利関係の調査義務を尽したものというべく、それ以上権利の取得過程にまで遡つてその真偽を調査する義務は有しないと解されるからである。しかも本件においては、被告岡部は右調査後程なく、事実上仲介より手を引いていたのであり、一方、原告側では本件物件が浜田らの所有であつたときからこれを買受けるべく交渉していたのであつて、本件物件が浜田らから被告中沢の所有に移つた物件であること、いわゆる金融の担保流れであること等の事情を知悉していたことが窺われるから、これらの事情を考慮するときは、被告岡部が浜田らとの関係について調査しかかつたとしても、これを目して仲介人としての注意義務に違反したものということはできない。

(被告岩井について)

被告岩井は不動産の仲介業者であるが、原告より本件取引の仲介を直接委託されたものではなく、被告岡部の依頼によつて本件取引に介入したものである。従つて原告との間に直接の委託関係はない。しかし、前記認定のように本件取引の当初からこれに介入し、契約成立、売買代金授受の際も立会つているのであつて、事実上仲介の行為をなしたことが認められるから、同被告の介入に信頼した原告に対しても不動産仲介業者としての一般的注意義務を負つていたものと解するのが相当である。

よつて、同被告の責任につき考えるに被告森本の権限の点に関しては、右被告岡部について述べたと同様の理由で、被告岩井にも注意義務違反ありとすることはできない。

次に、本件物件の瑕疵についても、前記認定事実からすると、被告岩井が被告岡部による登記簿の調査結果を聞知していたであろうことは推認するに難くないが、そうすると被告岩井自身が更に登記簿を調査することは実際上無意味であり、同被告としても、被告岡部によつて自己の責任をも果されたものと考えてあえて調査しないであろうことが自然であつて、結局被告岡部の調査によつて被告岩井の調査義務も一応尽されたものというを妨げない。そのほか、右岡部に関して述べたと同様の理由で、被告岩井に注意義務違反ありということはできない。(木下忠良 岩川清 柴田和夫)

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